May 11, 2019
The Bach Dynasty
1720年初頭、クーテンの営薬をつとめていたバッハは、楽目の優れた楽器を者たちのために、それまでの
常識を突き破る、革新的な作品を次々に生み出しました。なかでも、無奏チェロ組曲とヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタは、従来、通奏低音として旋律楽器を支える役割を担ってきたこれら二つの“地味な”楽器を一躍主役の座に据え、技法の限りを尽くしながら、低音楽器ならではの深く豊かな響きを聴かせるという驚くべき作品です。また、ガンバ・ソナタでは、チェンバロにも通奏低音ではなく独立した音楽が与えられ、古典派以降の室内楽を先取りする傑作となりました。
イタリア様式を持つチェロ組曲第6番は、来5弦の楽器のために書かれたと考えられています。イタリア音楽に精通していたバッハは、もしかしたらヴィヴァルディのヴィオロンチェロ・ピッコロのための協奏曲を知って、4弦ではなく、より響きの豊かな5弦の低音楽器(ヴィオロンチェロ・ピッコロ、ヴィオラ・ポンボーサ)のためにこの組曲を作曲しょうと思いついたのかもしれません。チェロよりも細い弦が張られ、ボディも小振りなこれらの楽器は、軽やかで、そしてイタリアらしい華やかな明るい響きを聴かせてくれます。
一方、息子たちは、父バッハの影響を受けつつも各々の個性を磨き、バロックから古典派へと移り変る新しい時代のスタイルを生み出して行きます。今回演奏されるエマヌエル・バッハのガンバ・ソナタ、クリストフ・バッハのチェロ・ソナタは父バッハの作品と同じような編成をとりながらも、そのスタイルは全く異なり、新しい時代のギャラントな息吹を感じさせます。
それぞれが独創的であったバッハ家の音楽家たちの天才たるゆえんは、単なる斬新さという次心を越えて、音楽に触れるすべての人をわくわくとした喜びで満たしてくれる、そのとびきりのスピリットにあるのかもしれません。2019年の東京で、彼らはどんな顔を見せてくれるのでしょう。一
-バッハ家の音楽会へようこそ
[昼の部]
ピッコロ・チェロ+チェンバロ
JS.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻よりプレリュード 二長調
J. S. Bach (1685-1750) | Das Wohltemperierte Klavier II Praeludium D-Dur BWV 874
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第6番 二長調
J. S. Bach | Suite für Violoncello Nr. 6 D-Dur BWV 1012
J.C.F.バッハ:チェロと奏音のためのソナタイ長調
J. C. F. Bach (1732-1795) | Sonata A dur für Violoncello und Basso Continuo
J.S.バッハ:トリオ・ソナタ 第5番ハ長調
J. S. Bach | Trio Sonata Nr. 5 C-Dur BWV 529
[夜の部]
ヴィオラ・ダ・ガンバ+チェンバロ
J.S.バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第1番ト長調
J. S. Bach | Sonata für Viola da gamba und Cembalo Nr. 1 G-Dur BWV 1027
C.P.E.バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ ト短調
C. P. E. Bach (1714-1788) | Sonata für Viola da gamba und Cembalo g-moll Wg 88
W.F.バッハ:ファンタジーイ短調
W. F. Bach (1710-1784) | Fantasie a-moll Falck 23
J.S.バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第2番二長調
J. S. Bach | Sonata für Viola da gamba und Cembalo Nr. 2 D-Dur BWV 1028
エマニュエル・シラール
Emmanuel GIRARD
パリ・ソルボンヌ大学で美術史、ラングゾー=フランス国立東洋言語大学で日本語を学び、パリ国立高等音楽院をチェロ、室内楽共にプルミエプリで卒業。卒業後、同音楽院の古楽器科において、バロックチェロと通奏低音を学ぶ。ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者でもある。国
際古楽コンクール(山梨)審査員。現在、桐朋学園大学音楽学部の特任教授、宮城学女子大学音楽料非常勤講師。CD録音はバッハの無伴奏チェロ組由、フォルクレなど。シューベルトの曲集を2019年に発売予定。
大村千秋
Chiaki OMURA
東京藝術大学大学院古楽科・チェンバロ専攻修了。アムステルダム音楽院チェンバロ科およびフォルテピアノ科にて学ぶ(2009年度文
化庁新進芸術家海外研修員)。第21回古楽コンクール山梨において最高位受賞。帰国後は、
2014年よりチェンバロのリサイタル・シリー
ズを続けるほか、フォルテビアノ、クラヴィコード、ポジティフオルガン等様々な鍵盤楽器に取り組み、ソリストとして、また通奏低
童・アンサンブル奏者として国内外で演奏を行っている。桐朋学園